長崎地方裁判所 昭和42年(ワ)83号 判決 1968年5月07日
原告 国
訴訟代理人 島村芳見 外三名
被告 有限会社 愛宕商会
主文
被告会社が昭和三四年一一月一五日なした資本額五五万円の減少は無効であることを確認する。
訴訟養用は彼告の負担とする。
事 実 <省略>
理由
一、原告が被告会社に対し、昭和三四年一一月一五日現在、同年度に徴収すべき法人税及び同加算税合計五、〇一〇万五、九三〇円の租税債権を有していたことは当事者間に争いがない。
二、<証拠省略>を総合すると、次のような事実を認めることができる。すなわち、被告会社は金銭の貸付、不動産の売買等を目的として昭和三一年三月六日設立せられ、後記の臨時社員総会開催当時、資本の総額は一七〇万円(出資口数一七〇〇口)、社員として訴外佐々木袈裟雄(出資五七五口、代表取締役)、同佐々木綱美(出資五五〇口、取締役)、同佐々木文雄(出資二五〇口、取締役)、同佐々木綱徳(出資二五〇口、監査役)、同佐々木キカ(出資二〇〇口)の五名によつて構成される、いわゆる同族会社であつたところ、昭和三四年ごろ前記の国税滞納に伴い国税庁から被告会社代表者佐々木袈裟雄個人所有名義の資産調査がなされたこと等から、社員佐々木綱美より再三に亘り同人の社員脱退及び持分相当額金五五万円の払い戻しの要求がなされるに至つたが、当時被告会社には手持ちの金がなくて直ちにこれを払い戻すことができなかつたので、これが対策につき関係者において相談した結果、訴外東島渥美(綱美の兄)が新たに入社して五〇口分金五万円を、残五〇〇口分金五〇万円は佐々木袈裟雄(綱美の父)が自己所有名義の現金及び債権を会社に提供してその中から、それぞれ支弁、処理することとしたこと、かくて同年一一月一五日、被告会社の臨時社員総会において全社員出席の上、(イ)社員佐々木綱美の取締役辞任及び社員脱退並びにこれに伴う同人の出資金五五万円の還付承認(ロ)東島渥美社員加入(出資五〇口)の承認及び同人を取締役に選任する(ハ)佐々木袈裟雄の現金及び現物出資合計金一、六四六万三、〇〇〇円及びこれに与える出資口数一六、四六三口の承記等の議案が全員一致で決議せられたこと、よつて翌一六日、東島渥美は現金五万円を、佐々木袈裟雄は現金(七万八、七四五円)及び貸金債権合計一、六四六万三、〇〇〇円をそれぞれ出資の履行として被告会社に提供し、被告会社は会計処理上いずれも資本の増加として取扱つていること、ついで同月二一日、被告会社は東島よりの右金五万円を綱美に支払い、残金五〇万円については、同日これが支払いのため被告会社振出しの約束手形(金額五〇万円)を交付したが、期日に支払いができなかつたため、前記袈裟雄から提供された債権のうち訴外田崎新市、同田中愛輝に対する各二〇万円及び訴外平山一男に対する一〇万円の各債権を綱美に譲渡して決済処理し、綱美は結局昭和三五年一月末までに合計金四五万円を現金取得したこと、右現金及び債権の交付は被告会社の会計帳簿上いずれも資本の減少として取り扱われていること、以上のような事実を認めることができる。
被告訴訟代理人は、綱美に対する同人の出資金五五万円の還付は、被告会社において綱美と東島及ひ袈裟雄との間の持分譲渡を仲介したことによるものである旨主張するところ、これに副う<証拠省略>殊に社員に非ざる東島に対する持分譲渡の通知書面及び同譲受け承諾の書面は、右持分譲渡が有効に成立したことを裏付ける重要な資料となる(有限会社法第一九条参照)が、<証拠省略>及び弁論の全趣旨に徴すると、いずれもその作成日時当時真正に作成せられたものではなく、少くとも本件臨時社員総会の決議がなされた当時においては存在しなかつたことを看取するに難くなく、また、被告会社が綱美の持分譲渡を仲介してその対価の授受を会社の会計処理の中で行うことの合理性ないし必要性については、<証拠省略>によつても到底これを首肯するに足らず、むしろ、<証拠省略>が述べるように会社の帳簿類に記載して残しておくのが適切であるとするならば、右持分譲渡による旨をこそ記録しておくべきものと考えられるのに、<証拠省略>にはそのような記載が全然なされていない。
以上によつてみれば、被告会社は昭和三四年一一月一五日、その臨時社員総会において、東島引受けにかかる五〇口分と袈裟雄引受けにかかる一万六、四六三口(合計金一、六五一万三、〇〇〇円)の資本の増加と併せて、綱美の出資持分五五〇口につきその出資金相当額金五五万円を同人に払い戻してこれを減少する旨の決議をなし、よつて資本の減少を行つたものと認めざるをえない。
<証拠省略>のうち、右認定に抵触する供述、記載は前記各証拠と対比して採ることをえず、他に右認定を動かすに足る適確な証拠はない。
しかるところ、被告会社において右に関し、有限会社法第五八条により準用される商法第三七六条二項、第一〇〇条所定の債権者に対する公告及び催告をしていないことは被告の自認するところであるから、本件資本額金五五万円の減少は、右債権者保護の手続を履践しないものとして効力を生しないと言わなければならない。
そうすると、被告会社が昭和三四年一一月一五日なした資本額金五五万円の滅少が無効であることの確認を求める原告の請求は理由かあるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 右川亮平)